インフルエンザなのに抗生物質!?

数年前の話になりますが、ある患者さんが「インフルエンザです」と処方箋をお持ちになりました。そこには「タミフル®カプセル75mg」と一緒に「クラリスロマイシン錠200mg」の文字が並んでいました。

当然ながら、クラリスロマイシンは抗生物質であり、インフルエンザウイルスに対しては効果がありません。小児や高齢者で肺炎などの合併症が懸念される場合には抗生物質が処方されることもありますが、この患者さんは30歳前後のがっしりとした体つきの男性でした。

症状も発熱と節々の痛み程度で、特に合併症の心配はなさそうに見えます。

処方箋を前に、少しの間、別の薬剤師と「医師が処方箋を書き間違えたのではないか?」「疑義照会しなくて良いか?」「患者さんが聞き間違えたのか?」など、相談しましたが、結局そのまま調剤することにしました。

クラリスロマイシンには治療増強効果が

インフルエンザの患者さんへのクラリスロマイシンの処方箋は、それ以降受け付けることはありませんでしたが、その不思議な処方はずっと頭に残っていました。

それから半年ばかりした頃、感染症の講演会に参加した時のことです。
「インフルエンザに対し、抗インフルエンザ薬と一緒にクラリスロマイシンを使用することで、治療効果の増強が期待できる」という講演を聞き、「あの時の処方箋はこれだったのか!」と納得できました。

クラリスロマイシンによる抗インフルエンザ効果

クラリスロマイシンがインフルエンザの治療効果を増強する主な機序としては、次の3つが考えられています。

(1)インフルエンザウイルス受容体の減少効果
インフルエンザウイルスは、喉などの気道粘膜に存在するインフルエンザウイルス受容体に吸着され、ヒトの細胞へ侵入し増殖していきます。クラリスロマイシンには、このインフルエンザウイルス受容体を減少させる効果があります。

(2)炎症性サイトカインの産生抑制効果
インフルエンザウイルスの感染により増加する炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-8など)の放出を抑えることで、気道炎症などを改善する効果があります。

(3)抗体価の上昇効果
タミフル®などの抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑制することでインフルエンザの治療期間を短縮することができます。一方で、ウイルスの増殖を抑制するため、体内で産生される抗インフルエンザIgA抗体の産生量を減少させてしまうというマイナスの面も持ち合わせています。

クラリスロマイシンはこの抗インフルエンザ IgA抗体の産生量を増加させる働きがあり、気道粘膜における免疫応答を増強する効果があります。

これにより気道粘膜の獲得免疫ができるため、1シーズンのうちに再度インフルエンザに罹りにくくなることが期待されます。

適応外処方であることに注意を

これらのクラリスロマイシンの作用は、インフルエンザウイルスだけではなく、一般に“風邪”と呼ばれる疾患の原因である、ライノウイルスやRSウイルスなどにも同様の効果があると言われています。

ただし、インフルエンザを含めたウイルス性疾患へのクラリスロマイシンの処方は、保険診療上認められた適応症への処方ではない(適応外処方)ため、十分注意が必要です。

※2016/04/30 「薬剤師の転職・求人・派遣募集なら【転職ゴリ薬】」掲載分原稿

ふな3
ふな3
栃木県にある調剤薬局に勤務する薬剤師です。 薬局薬剤師としての勤務経験は長いとは言えませんが、日々業務や勉強をしながら気づいたことや感じたことを書き留めていきたいと思います。 ツイッターはこちら → @funa3di

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