妊婦さんへの服薬指導

このたび、ご縁があって日経DI誌・2016.04号「日経DIクイズ」に、原稿を掲載していただくことになりました。

これまで社内報やブログ、そしてコラムではいくつか記事を書かせていただいていましたが、雑誌(しかも日経DIさん!)への執筆とは、夢にも思わない機会を与えていただきました。

さて、今回僕が書かせていただいたDIクイズは「妊婦に出された喘息の吸入薬」です。
執筆者自身である僕がこんな事を書いてしまって良いのかどうか分かりませんが、このクイズの内容は「実際にそのような副作用まで心配する必要があるのか」について、意見が分かれるところだと思います。(担当編集者さん、すみません…)

「このクイズの設定や解答、解説には無理がある」というお叱りや疑問の声は少なからずあろうかと思います。その点は反省はしたいと思います。

ただ、このクイズを採用していただけて良かったな、と感じています。その気持ちをここに書いておきたいと思います。

答えられなかった患者さんからの質問

クイズ原案となったのは、ある妊婦さんが実際に僕の薬局に持参してくださった処方箋と、その時の会話です。
クイズでは妊娠初期となっていますが、実際の妊婦の患者さんは7~8ヶ月くらいだったと記憶しています。

その患者さんからの質問は「産婦人科の先生から『出産が近くなったら、シムビコートではない吸入薬に変えたいと思う』と言っていたけど、何か心配なことがあるのですか?」というものでした。

僕はその場でシムビコートの添付文書を確認してみましたが、妊娠への投与については

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
[ラットを用いた器官形成期毒性試験では、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物として12/0.66μg/kg以上を吸入投与したときに、着床後胚損失率の増加、及び催奇形性作用が認められている。]

との記載があるのみでした。

催奇形性などの先天性異常や胎児毒性については、すでに妊娠中期~後期の時期であることと、『出産が近くなったら』という言葉から、処方医はほとんど心配していないことが伺えます。
僕はその場では答えられずに「宿題」という形になり、医師の処方変更の意図を調べることになりました。

「らしい」答えは見つかったけれど…

インタビューフォームを読んでも答えは見つからず、FDAのプレグナンシーカテゴリー(現在は廃止)を見ても分からず…という状況でしたが、インターネット検索を続けるうちに「β2刺激薬には子宮平滑筋弛緩作用がある」という記述にあたり、ピンときました。
切迫流産・早産に用いられるウテメリン(リトドリン、キッセイ)はβ2刺激薬であり、子宮筋弛緩作用を利用していることを思い出しました。
「医師はβ2刺激薬の吸入によって引き起こされる陣痛減弱=分娩遅延を心配しているのではないか?」
それが、僕が導き出せた、もっとも「らしい」可能性でした。

ただし、その「らしい」答えにも、本当は(今でも)自信はありません。
「吸入薬でそのような全身性の副作用に繋がるのか?」「陣痛減弱が起きたとしても、それがすぐにリスクに繋がるのか?」など、いろんな疑問が湧きました。

妊婦さんの“不安”と“後悔”

そのような自信のない状態でクイズとして提案し、原稿を書いてしまい、掲載のはこびとなっている訳ですが、辞退をしなかったのは、妊婦さんの不安や障がいを持ったお子さんの親御さんのお気持ちに少しでも寄り添うことができたら、という気持ちからでした。

妊娠から出産というライフイベントは、女性が一生のうちで数回(10回以上という方もいらっしゃいますが)のものだと言えます。
もちろん、妊娠は病気ではありませんが、妊娠中に体調の変化が起こりやすかったり、中には出産時に命を落とすケースもあるかと思います。つわりの影響など食生活に影響が出たり、メンタル面で不安定になる方もいらっしゃいます。

そんな状態での体調不良と、それに伴う「治療」や「服薬」は、患者さん=妊婦さんにとって、とても不安なものであるのではないでしょうか。
特に、自分の身体ではなく「胎児への影響」という側面が、不安を招きやすい要素であることは間違いありません。
技術の発達により、3Dエコー撮影や出生前診断により、ある程度の障がいは事前に知り得ることとなりましたが、やはり40週の妊娠期間を経て、出産を終えてからでないと本当の意味での「安心」に繋がらないと言えます。

そして、皆さんの周りにもいらっしゃるかもしれませんが、流産のご経験をされた方や障がいを持ったお子さんの親御さん(お読みいただいている方で不愉快にお感じの方がいらっしゃったら申し訳ありません)にお話をうかがうと「あの時に○○をしていれば(○○をしていなければ)…、と思うことがある」とおっしゃいます。

クイズの解説本文に書かせていただきましたが、催奇形性や胎児毒性などの副作用が報告されている薬を除いては、ほとんどが添付文書に
「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」
との記載に留まり「リスクとベネフィット」は処方医の判断に委ねられているのが実情です。(FDAの旧プレグナンシーカテゴリーや、オーストラリア医薬品評価委員会による基準など、妊娠と薬物治療に関してのいくつかデータベース化されたものはありますが。)

医薬品等の影響を受けなかった(妊娠中に服薬のない妊婦が出産した)新生児でも、一定数の先天性異常があるとされるため、妊娠に対して過敏になり必要な治療が行えない、という事態は避けるべきと考えます。

ただし、万が一、治療後に胎児や新生児に異常が見つかった場合、妊婦や親は「あの治療がなかったら」と後悔をされてしまうのかもしれません。
あるいは「この薬で、もし赤ちゃんに影響があったら」と妊婦の患者さんが不安に感じてしまって、治療に消極的になり、かえって症状を悪化させてしまったとしたら、それこそ本末転倒です。

妊婦さんの気持ちに寄り添えるか

僕が今回のクイズに込めた思いは、上のような「医師が “患者さんの気持ちに寄り添った” 処方変更をした時に、薬剤師がどうフォローできるのか?」あるいは、「薬剤師が “患者さんの気持ちに寄り添った” 服薬指導や医師への処方提案ができるか?」ということです。

クイズ作成にあたり、分娩遅延だけではなく、添付文書に記載のある催奇形性にも触れるべきとのアドバイスもあり、実症例に脚色をした設定や設問にさせていただきました。
しっかりとしたエビデンスがないままクイズ提案をしてしまい、編集者さんにはとてもご迷惑をお掛けしましたが、今回、このような勉強の機会を与えていただいたことに本当に感謝しています。ありがとうございます。

お読みいただいた方々からのご意見をしっかり受け止め、今後、またこうした機会がいただけるよう努力していきたいと思います。

今回のクイズのきっかけを与えてくださった産婦人科の先生にも、この場をお借りしてお礼を申し上げます。

ちなみに冒頭の患者さんは、無事に元気な赤ちゃんを出産されて、今ではそのお子さんを連れて薬局に来てくれています。
患者さんに少しでも安心してお帰りいただける、そんな薬局を目指して、これからも頑張っていきたいと思います。

ふな3
ふな3
栃木県にある調剤薬局に勤務する薬剤師です。 薬局薬剤師としての勤務経験は長いとは言えませんが、日々業務や勉強をしながら気づいたことや感じたことを書き留めていきたいと思います。 ツイッターはこちら → @funa3di

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