インフルエンザなのに抗生物質!?

数年前の話になりますが、ある患者さんが「インフルエンザです」と処方箋をお持ちになりました。そこには「タミフル®カプセル75mg」と一緒に「クラリスロマイシン錠200mg」の文字が並んでいました。

当然ながら、クラリスロマイシンは抗生物質であり、インフルエンザウイルスに対しては効果がありません。小児や高齢者で肺炎などの合併症が懸念される場合には抗生物質が処方されることもありますが、この患者さんは30歳前後のがっしりとした体つきの男性でした。

症状も発熱と節々の痛み程度で、特に合併症の心配はなさそうに見えます。

処方箋を前に、少しの間、別の薬剤師と「医師が処方箋を書き間違えたのではないか?」「疑義照会しなくて良いか?」「患者さんが聞き間違えたのか?」など、相談しましたが、結局そのまま調剤することにしました。

クラリスロマイシンには治療増強効果が

インフルエンザの患者さんへのクラリスロマイシンの処方箋は、それ以降受け付けることはありませんでしたが、その不思議な処方はずっと頭に残っていました。

それから半年ばかりした頃、感染症の講演会に参加した時のことです。
「インフルエンザに対し、抗インフルエンザ薬と一緒にクラリスロマイシンを使用することで、治療効果の増強が期待できる」という講演を聞き、「あの時の処方箋はこれだったのか!」と納得できました。

クラリスロマイシンによる抗インフルエンザ効果

クラリスロマイシンがインフルエンザの治療効果を増強する主な機序としては、次の3つが考えられています。

(1)インフルエンザウイルス受容体の減少効果
インフルエンザウイルスは、喉などの気道粘膜に存在するインフルエンザウイルス受容体に吸着され、ヒトの細胞へ侵入し増殖していきます。クラリスロマイシンには、このインフルエンザウイルス受容体を減少させる効果があります。

(2)炎症性サイトカインの産生抑制効果
インフルエンザウイルスの感染により増加する炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-8など)の放出を抑えることで、気道炎症などを改善する効果があります。

(3)抗体価の上昇効果
タミフル®などの抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑制することでインフルエンザの治療期間を短縮することができます。一方で、ウイルスの増殖を抑制するため、体内で産生される抗インフルエンザIgA抗体の産生量を減少させてしまうというマイナスの面も持ち合わせています。

クラリスロマイシンはこの抗インフルエンザ IgA抗体の産生量を増加させる働きがあり、気道粘膜における免疫応答を増強する効果があります。

これにより気道粘膜の獲得免疫ができるため、1シーズンのうちに再度インフルエンザに罹りにくくなることが期待されます。

適応外処方であることに注意を

これらのクラリスロマイシンの作用は、インフルエンザウイルスだけではなく、一般に“風邪”と呼ばれる疾患の原因である、ライノウイルスやRSウイルスなどにも同様の効果があると言われています。

ただし、インフルエンザを含めたウイルス性疾患へのクラリスロマイシンの処方は、保険診療上認められた適応症への処方ではない(適応外処方)ため、十分注意が必要です。

※2016/04/30 「薬剤師の転職・求人・派遣募集なら【転職ゴリ薬】」掲載分原稿

添付文書の読み方:添付文書とその役割

調剤薬局や病院薬剤部で働く薬剤師であれば、添付文書は、最も目にする機会が多い製品情報提供文書でしょう。パッケージに封入されているため、医薬品を開封する度に目に留まり、かえって「読まずに捨てる」という方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、添付文書は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法[旧薬事法])で医薬品への添付が義務付けられた公文書であり、とても重要な意味をもつ文書です。

添付文書は保険調剤の《要》

一般的に「調剤薬局」という名前が浸透していますが、調剤を行う薬局は、健康保険法に基づいて保険調剤を行う「保険薬局」として定義されています。

保険薬局での保険調剤は、原則として「薬担規則(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則)」及び「調剤報酬点数表」に従って行われることが求められます。

添付文書には、「国から承認された」効能・効果、用量・用法、使用上の注意などが記されており、裏を返せば、そこに記載された内容以外は、保険診療の対象外とされる可能性があります。つまり、添付文書こそ、保険調剤の《要》となります。

意外と守られていない添付文書

一方で、実際には添付文書の通り処方されない医薬品が多く存在することも事実です。

たとえば、PL配合顆粒®は、添付文書には「1日4回経口投与」と記載されていますが、「1日3回毎食後」で処方されるケースが圧倒的に多いです。

また、ムコスタ®(一般名:レバミピド、大塚製薬)は、添付文書には「朝、夕及び就寝前に経口投与」(胃潰瘍の場合)と記載されていますが、やはり「1日3回毎食後」として処方されるケースがほとんどです。

ここで紹介したような軽微な用法の違いでは、治療効果や安全性に大きな差が出ることは考えにくいのですが、医薬品や患者さんの状態によっては、大きな問題に発展する場合もあります。

添付文書をしっかり確認する必要性

では、添付文書を確認せずに、疑義照会などの対応を行わないまま調剤を行うと、どんな問題が起こりうるのでしょうか。

まず考えられるのは、「保険調剤」と認められずに、審査支払機関(保険者)から調剤報酬を調整減額されるケースです。処方医側が減額される場合もありますし、薬局側から減額される場合もあります。また、適切な疑義照会などが行われていない薬局に対しては、管轄の地方厚生局からの指導が行われることがあります。

そして、最も大きな問題となるのが患者さんへの健康被害が起きた場合です。

もし、添付文書通りの用量・用法・適応症などでないにもかかわらず、疑義照会などを怠り、副作用が発現したり、十分な治療効果が得られなかったりした場合には、薬局・薬剤師にその健康被害に対する責任が発生します。平成23年には、薬の過量投与による医療事故で薬剤師に損害賠償責任を認めた判決が出されています。

まずは、勤務先で採用されている医薬品の添付文書をしっかりと確認し、調剤している処方内容が適切であるかどうか、もう一度確認してみる必要があるでしょう。

※2016/05/10 「薬剤師の転職・求人・派遣募集なら【転職ゴリ薬】」掲載分原稿を加筆訂正

傾聴の大切さ

昨年の秋口のことです。ある日の午後、知人の女性から「ちょっと聞いてよ!」とLINEが来ました。

メッセージを確認すると、矢継ぎ早に「福山雅治が結婚するんだって!」「ましゃ(福山雅治の愛称)だけは、ぜーったい結婚しないと思ってたのに!」と、かなり興奮した様子……。挙句の果てには「もう仕事する気がなくなったから、今日は会社を早退するわ」との言葉まで出ました。

『そもそも、自分だって結婚して、もう子供もいるのに、何がそんなにショックなんだろう?』と苦笑しながらも、「それはショックだったね」「いきなりの発表だったから驚いたね!」と相づちを返している間に、本人もだんだん落ち着いてきたらしく、「話を聞いてもらったらスッキリしたわ!ありがとね!」と、どうやら仕事をする気になれたようでした。

ワイドショーでも、彼女のような、いわゆる「ましゃロス」で「仕事を休む」「やけ酒を飲んでやる」といった女性が多くいたことが報道されていました。

人はなぜ、他人に話すのか?

先に書いた「ましゃロス」の女性ほど極端ではないにせよ、皆さんも「ちょっと聞いてよ!」と話を聞いてくれる人を探した経験はありませんか?

「道を歩いていたらガムを踏んでしまった」「仕事帰りにわざわざ1時間も遠回りして買い物にいったのに、目当ての限定品が売り切れていた」「お気に入りの服を汚してしまった」

そんなショックを受けた時、人は「ちょっと聞いてよ!」と、思わず誰かに話してしまいたくなるものです。

でも、これって、ちょっと不思議なことだと思いませんか? その出来事や気持ちを誰かに話したところで、それらの問題は一切解決しないのですから。

誰かに話したところで、踏んづけたガムが取れるわけでもなく、売り切れの限定品が買えるようになるわけでもなく、お気に入りの服の汚れが取れるわけでもないのです。

では、なぜ人は誰かに、そのストレスを受けた出来事を話すのでしょうか?

人に話すことで安らぎが得られる

人は、ストレスを感じた出来事を他人に話すことで、自分自身の気持ちが整理されて、気持ちが落ち着くといわれています。

特に、自分の怒りや悲しみ、といったネガティブな感情に共感してくれる相手があることは、その怒りや悲しみを和らげる作用を持っているのです。

こうした作用は、メンタルケアの場面において、カウンセリングという形で治療やリハビリに取り入れられてもいます。

薬剤師としての「傾聴」の大切さ

私たち薬剤師は、日々、さまざまな疾患をかかえた患者さんと接しています。

患者さんは、病気の症状や痛み、治療や薬の副作用についての不安など、私たち以上に敏感になっていらっしゃいます。

そんな患者さんのお話にじっくりと耳を傾けて「傾聴」することで、たとえ患者さんにとって何の解決にならなくても、あるいは、薬剤師として何もして差し上げられなかったとしても、患者さんの治療の手助けになるのではないでしょうか。

平成28年度調剤報酬改定で新設された「かかりつけ薬剤師」制度では、薬剤師に「患者さんとの信頼関係」や「コミュニケーション力」が求められています。
患者さんに選んでいただける薬剤師になることが目標ではありませんが、「かかりつけ薬剤師」としてその役割を十分に果たすためにも、普段から患者さんの悩みや不安に耳を傾けておきたいものです。

「いつでも、どんな話でもお聞きしますよ」という雰囲気づくりを心がけ、「傾聴」を大切にしていきたいですね。

※2016/05/05 「薬剤師の転職・求人・派遣募集なら【転職ゴリ薬】」掲載分原稿に加筆

妊婦さんへの服薬指導

このたび、ご縁があって日経DI誌・2016.04号「日経DIクイズ」に、原稿を掲載していただくことになりました。

これまで社内報やブログ、そしてコラムではいくつか記事を書かせていただいていましたが、雑誌(しかも日経DIさん!)への執筆とは、夢にも思わない機会を与えていただきました。

さて、今回僕が書かせていただいたDIクイズは「妊婦に出された喘息の吸入薬」です。
執筆者自身である僕がこんな事を書いてしまって良いのかどうか分かりませんが、このクイズの内容は「実際にそのような副作用まで心配する必要があるのか」について、意見が分かれるところだと思います。(担当編集者さん、すみません…)

「このクイズの設定や解答、解説には無理がある」というお叱りや疑問の声は少なからずあろうかと思います。その点は反省はしたいと思います。

ただ、このクイズを採用していただけて良かったな、と感じています。その気持ちをここに書いておきたいと思います。

答えられなかった患者さんからの質問

クイズ原案となったのは、ある妊婦さんが実際に僕の薬局に持参してくださった処方箋と、その時の会話です。
クイズでは妊娠初期となっていますが、実際の妊婦の患者さんは7~8ヶ月くらいだったと記憶しています。

その患者さんからの質問は「産婦人科の先生から『出産が近くなったら、シムビコートではない吸入薬に変えたいと思う』と言っていたけど、何か心配なことがあるのですか?」というものでした。

僕はその場でシムビコートの添付文書を確認してみましたが、妊娠への投与については

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
[ラットを用いた器官形成期毒性試験では、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物として12/0.66μg/kg以上を吸入投与したときに、着床後胚損失率の増加、及び催奇形性作用が認められている。]

との記載があるのみでした。

催奇形性などの先天性異常や胎児毒性については、すでに妊娠中期~後期の時期であることと、『出産が近くなったら』という言葉から、処方医はほとんど心配していないことが伺えます。
僕はその場では答えられずに「宿題」という形になり、医師の処方変更の意図を調べることになりました。

「らしい」答えは見つかったけれど…

インタビューフォームを読んでも答えは見つからず、FDAのプレグナンシーカテゴリー(現在は廃止)を見ても分からず…という状況でしたが、インターネット検索を続けるうちに「β2刺激薬には子宮平滑筋弛緩作用がある」という記述にあたり、ピンときました。
切迫流産・早産に用いられるウテメリン(リトドリン、キッセイ)はβ2刺激薬であり、子宮筋弛緩作用を利用していることを思い出しました。
「医師はβ2刺激薬の吸入によって引き起こされる陣痛減弱=分娩遅延を心配しているのではないか?」
それが、僕が導き出せた、もっとも「らしい」可能性でした。

ただし、その「らしい」答えにも、本当は(今でも)自信はありません。
「吸入薬でそのような全身性の副作用に繋がるのか?」「陣痛減弱が起きたとしても、それがすぐにリスクに繋がるのか?」など、いろんな疑問が湧きました。

妊婦さんの“不安”と“後悔”

そのような自信のない状態でクイズとして提案し、原稿を書いてしまい、掲載のはこびとなっている訳ですが、辞退をしなかったのは、妊婦さんの不安や障がいを持ったお子さんの親御さんのお気持ちに少しでも寄り添うことができたら、という気持ちからでした。

妊娠から出産というライフイベントは、女性が一生のうちで数回(10回以上という方もいらっしゃいますが)のものだと言えます。
もちろん、妊娠は病気ではありませんが、妊娠中に体調の変化が起こりやすかったり、中には出産時に命を落とすケースもあるかと思います。つわりの影響など食生活に影響が出たり、メンタル面で不安定になる方もいらっしゃいます。

そんな状態での体調不良と、それに伴う「治療」や「服薬」は、患者さん=妊婦さんにとって、とても不安なものであるのではないでしょうか。
特に、自分の身体ではなく「胎児への影響」という側面が、不安を招きやすい要素であることは間違いありません。
技術の発達により、3Dエコー撮影や出生前診断により、ある程度の障がいは事前に知り得ることとなりましたが、やはり40週の妊娠期間を経て、出産を終えてからでないと本当の意味での「安心」に繋がらないと言えます。

そして、皆さんの周りにもいらっしゃるかもしれませんが、流産のご経験をされた方や障がいを持ったお子さんの親御さん(お読みいただいている方で不愉快にお感じの方がいらっしゃったら申し訳ありません)にお話をうかがうと「あの時に○○をしていれば(○○をしていなければ)…、と思うことがある」とおっしゃいます。

クイズの解説本文に書かせていただきましたが、催奇形性や胎児毒性などの副作用が報告されている薬を除いては、ほとんどが添付文書に
「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」
との記載に留まり「リスクとベネフィット」は処方医の判断に委ねられているのが実情です。(FDAの旧プレグナンシーカテゴリーや、オーストラリア医薬品評価委員会による基準など、妊娠と薬物治療に関してのいくつかデータベース化されたものはありますが。)

医薬品等の影響を受けなかった(妊娠中に服薬のない妊婦が出産した)新生児でも、一定数の先天性異常があるとされるため、妊娠に対して過敏になり必要な治療が行えない、という事態は避けるべきと考えます。

ただし、万が一、治療後に胎児や新生児に異常が見つかった場合、妊婦や親は「あの治療がなかったら」と後悔をされてしまうのかもしれません。
あるいは「この薬で、もし赤ちゃんに影響があったら」と妊婦の患者さんが不安に感じてしまって、治療に消極的になり、かえって症状を悪化させてしまったとしたら、それこそ本末転倒です。

妊婦さんの気持ちに寄り添えるか

僕が今回のクイズに込めた思いは、上のような「医師が “患者さんの気持ちに寄り添った” 処方変更をした時に、薬剤師がどうフォローできるのか?」あるいは、「薬剤師が “患者さんの気持ちに寄り添った” 服薬指導や医師への処方提案ができるか?」ということです。

クイズ作成にあたり、分娩遅延だけではなく、添付文書に記載のある催奇形性にも触れるべきとのアドバイスもあり、実症例に脚色をした設定や設問にさせていただきました。
しっかりとしたエビデンスがないままクイズ提案をしてしまい、編集者さんにはとてもご迷惑をお掛けしましたが、今回、このような勉強の機会を与えていただいたことに本当に感謝しています。ありがとうございます。

お読みいただいた方々からのご意見をしっかり受け止め、今後、またこうした機会がいただけるよう努力していきたいと思います。

今回のクイズのきっかけを与えてくださった産婦人科の先生にも、この場をお借りしてお礼を申し上げます。

ちなみに冒頭の患者さんは、無事に元気な赤ちゃんを出産されて、今ではそのお子さんを連れて薬局に来てくれています。
患者さんに少しでも安心してお帰りいただける、そんな薬局を目指して、これからも頑張っていきたいと思います。

薬剤師法から読み解く薬剤師の役割

2015年は、薬局・薬剤師をめぐる不祥事が相次ぎ、薬局・薬剤師への不信感が広がった1年だったといえるでしょう。

まず、大手ドラッグストアチェーンでの薬歴未記載問題が発覚し、その後、次々と同様の薬局があることが判明し、国会でも取り上げられました。

また、別の薬局では、事務員などの薬剤師以外による無資格調剤が行われていたことが明らかとなり、厚生労働省から指導通知が出される事態となりました。

さらに、週刊誌では、「おくすり手帳」の有無によって薬剤服薬管理指導料の料金が異なることが十分に説明されないまま会計が行われている、などと調剤料の請求が不適切であることなどが記事になりました。

こうした薬局や薬剤師への不信感は一朝一夕に払拭できるものではなく、今、まさしく、私たち薬剤師のあり方が問われていると言っていいでしょう。

薬剤師の責務

言うまでもなく薬剤師は免許制であり、薬剤師は皆、国家試験に合格し、その免許を手にしています。その薬剤師が薬剤師たる上で礎としているのが「薬剤師法」です。

薬剤師法の第一条には「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」と記されています。

医療従事者に関わる法律には、他にも医師法、歯科医師法、保健婦助産婦看護婦法などがありますが、このうち「国民の健康な生活を確保する」という条文があるのは、医師法、歯科医師法と薬剤師法の三師法です。保健師助産師看護師法にはその記述はありません。

つまり、調剤や薬事衛生(食品や衛生品などの管理業務)などの業務を通じて国民の健康な生活に寄与する、という責務が、資格と共に薬剤師に与えられているのです。

薬剤師としての矜持を大切に

この薬剤師法に照らし合わせると、薬歴未記載問題や無資格調剤が、いかに薬剤師として無責任な行為であったかが分かるのではないでしょうか。

医薬品を服用した上での副作用や安全性の情報が記録されていなかったり、責任を負える立場ではない者に調剤をさせたり、といった行為は、薬剤師の職務放棄といっても過言ではありません。

薬剤師の仕事は「20年後にはロボットにとって代わられる仕事」と揶揄されることがしばしばありますが、こうした評価もやはり、薬剤師としての責務を果たしてこなかったことが原因でしょう。

「薬歴を書く時間が取れない」「会社・薬局として取り組む姿勢がないので仕方がない」など、課題をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

しかし、私たち薬剤師は会社員である前に、1人の薬剤師であるはずです。「ただ言われた通りに働いているだけの薬剤師」、「仕事をするための薬剤師」ではなく、薬剤師法第一条にある「国民の健康な生活を確保する」という、薬剤師としての矜持を持って業務に取り組んでいかなければ、今後ますます薬剤師への風当たりは強くなっていくのではないでしょうか。

※2015/12/27 「薬剤師の転職・求人・派遣募集なら【転職ゴリ薬】」掲載分原稿

情報はいつもフレッシュに

先日、アミティーザカプセル(ルビプロストン、マイランEPD)の一包化の処方箋を受け付けました。
アミティーザは、ソフトカプセルであることと、悪心等の副作用が懸念されるため、一包化の適否についてしばらく悩みました。
まずは、製剤学的に一包化が可能かどうか添付文書を見ましたが、一包化不可の記載がない上に、無包装下での安定性についての情報も記載がありませんでした。

そのため、メーカーに電話して問い合わせたところ「一包化についてのデータはないが、無包装状態での安定性については、「無包装条件下で30日間は問題がなかった」というデータがある」との回答が得られたため、30日以下であれば一包化しても問題無いだろう、と一包化を行いました。

メモをするのは大切なことだが…

一緒に勤務していた薬剤師は「同じ質問をしないように、そのメモを薬品棚に貼っておきましょう」と、メモを書き始めました。
そのような情報を書き留めて、薬局内で共有すること、そして、監査等にかかる手間を省略することはとても大切なことです。
しかし、ずっと書き留めてあるメモが、「いつまでも、その情報が正しい」との思い込みを生むことも事実です。

記憶に新しいのは、2014年に行われた、オパルモン(リマプロストアルファデクス、小野薬品)の吸湿性の改善です。
それまでは、「PTPヒートから取り出すと不安定になる」とされてきましたが、製剤的な工夫から吸湿性が改善され、一包化も可能な安定性の高い錠剤に変更されました。
そうした「新しい情報」が、メモ紙に反映されていけば良いのですが、「メモを貼ったこと」で満足してしまい、メモを貼った後に、新しい情報にアクセスする機会を失ってしまう可能性があると言えます。

常にフレッシュな情報にアクセスすること

僕の薬局では、取り扱いのある医薬品のすべての添付文書をファイルに入れ保管しています。
そして、PMDAからの情報が更新される度に、あるいは、添付文書改訂のお知らせが来るたびに、それらの入れ替えを行っています。
それだけでは十分ではありませんが、「何もしない」よりはマシです。

そこで、僕は先ほどのアミティーザの「一包化の可否」についてのメモも、棚への貼付ではなく、ファイリングされた添付文書にふせんで貼り付けるよう指示しました。そうすれば、少なくとも次回の添付文書改訂では、そのメモを張り替えることになり、最新の情報とそのメモが合致するか、確認する手段となるからです。

一包化の可否といった製剤的情報だけではなく、近年では、相互作用のアップデートや重大な副作用への注意喚起などが頻繁に行われています。常にフレッシュな情報にアクセスすることで、患者さんへの情報提供に役立てることが求められています。
無駄な作業を簡略化することは大変重要ですが、それにかかりきりにならず、最新の知見へのアップデートも行えるような工夫も心がけたいものです。

薬歴が書けない原因は“まじめさ”に?

2015年に朝日新聞の報道などで明るみとなり、国会での議題にされるなど大きな問題となった薬歴未記載問題ですが、その後は経営陣がナーバスになったことにより、次第に問題は収束しつつあるように見えます。
しかし、現場では「とりあえずSだけ入力して、他は後回し」「点数の低い薬歴は項目のチェックのみ」など、「当面の処置」が行われている薬局もあるようです。
そもそも、なぜ薬歴はたまってしまうのでしょうか?

改善策は浸透しているか?

未記載問題が発覚してから、薬剤師会勉強会や日経DIなどの薬剤師向けコンテンツに「薬歴の書き方」などが紹介されてきました。
そこに書いてあるのは「できるだけ手順を省略して、早く書く練習を」「業務の中に薬歴を書く時間を組み込めるように」といった内容だと思います。確かに、それらを行うことで「一定の」効果は期待できると思います。
それでも前述の通り、依然として「薬歴が溜まってしまいがち」と嘆く現場の薬剤師が少なくないことも事実です。

薬剤師の“性格”が災いしている?

少し話がそれますが、ここ数年「ゴミ屋敷」や「汚部屋」「片付けられない症候群」などが話題になるケースが増えています。
そして、これらの原因の1つとして「完璧主義」や「潔癖症」といった性格があげられていることをご存じでしょうか。
「ここだけはキレイにしたい」「後で必ず完璧にキレイにする」と“完璧”こだわっているうちに、ゴミが溜まったり、部屋の整理が滞ってしまうというものです。
「薬剤師はマジメな人が多い」というのは、よく言われることです。この場合の「マジメ」には良い意味と悪い意味が込められているのは、簡単にわかるかと思います。
「「マジメ」な性格」というのは、「言われたことをきちんとやり遂げる」「目の前の課題に対して“正解”を見つけようする」という良い面でありますが、度を越すと「マジメに取り組まない、考えない人を排除しようとする」「正解がないものに対しても正解を欲しがってしまう」ということになります。
僕は、「薬歴未記載」の問題の原因の1つに、この薬剤師に多い性格にあるのではないか?と考えています。
つまり「完璧な薬歴を書こうとするあまり、時間がかかりすぎてしまう」「自分の中で“答え”が見つけられないので、1文も書きすすめることができない」ということが原因の1つになっているのではないか、ということです。
また「こんな中途半端な薬歴を書いて…」と人に思われてしまうのが嫌だというプライドもあるかもしれません。

薬歴に完璧を求め過ぎない

僕は、SOAP薬歴以外の薬歴を書いたことがありませんが、薬歴の中で最も重要なことは「薬剤師としての処方への考察」と「それを患者に対して行ったことの記録」だと思っています。
どんなに、患者の訴えや症状・検査値などがしっかり書いてあっても、「それをどう評価したのか?」「どう患者に説明し、対応をしたのか?」ということが書かれていなければ薬歴としては完成しません。
処方箋を受け取って、調剤し、患者さんに指導をする間、ほとんどの薬剤師は「何の症状に対してこの薬が出ているのか?」「用量・用法はあっているか?」「この薬の禁忌には該当しないか?」「副作用としての優先順位は?」などを考えているはずです。
実はそれはそのまま「アセスメント」に当てはめることができるので、それを薬歴のAに書いていけば良いのです。それをメモしておくだけでも相当楽になっていくと思います。
そして、その場で分からないことがあれば「不明」として記録すれば良いのです。(ただし、後で時間がある時に必ず調べて、申し送りに記録しましょう。)
しかし、それができないのは「“キチンとした”薬歴として完成させたい」「自分がという思いが先に立ってしまうからではないでしょうか。
たとえ「平均点的な薬歴」であっても、「書いていない薬歴=0点」よりははるかに良いのです。
もし、薬歴が書けないという現状があれば、まずはその背景にある要因の他に、薬剤師の「性格」もチェックして、「必ずしも薬歴に完璧は求められていない」というところから始めてみてはいかがでしょうか?